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[書評]人間に向いてない(著者:黒澤いづみ)(講談社)を読んだ感想

   

[書評]人間に向いてない(著者:黒澤いづみ)(講談社)を読んだ感想

割とメフィスト賞の受賞作はチェックしている方だが、この賞は賛否両論の作品が多く、全体的に分量が多いし中には駄作もあったりするので、読んでみてつまらなかったら後悔することもある。

しかし試しにこの第57回メフィスト賞受賞作の「人間に向いてない」を読んだら、ものすごく面白かった。想定外にすごい小説に出会えて嬉しい。

以下、その感想を書いて行きたい。

表紙が怖い

[書評]人間に向いてない(著者:黒澤いづみ)(講談社)を読んだ感想

どうでもいいが、まず最初の感想は、表紙の装丁が怖いということである。

我が家は4歳と0歳の子供がいるところ、なぜこんな怖い表紙の本を読み始めてしまったのだろうと後悔した。

お父さんはこんな怖い本を読んでいるのか、とか思われるのも嫌だし、子供がホラー好きになってしまってもそれはそれで困る。

だから最初は割と後悔したし、表紙が怖いのでなるべく私自身も表紙を見ないようにしていた。

子育て世帯のママもパパも絶対読んだ方が良い

しかし中身は秀逸。

私は電車の中で読みながら感動してしまったほどである。

ネタバレになるので内容は割と隠すが、主人公は、自分の引きこもりの子供が異形というおぞましい姿に変身してしまった母親である。

そしてこの異形性症候群(だっけな。読み返してないので正確な名前忘れた)に罹患してしまった子を持つ親が世の中に蔓延した状態の日本社会を描いたものである。

みんな姿が恐ろしくなってしまうし、意思疎通が図れないような状態になってしまうので、そんな子供を捨てたりする親も出現する中、主人公はどうにか自分の子供と一緒に暮らしていこうと決意する話である。

それだけなら単なるSF小説なのだが、これはメフィスト賞。カテゴリー的にはミステリーであって、一応それっぽい布石も色々散りばめられている。

が、どちらかというと推理小説のようなSFのような形態をとった私小説にも近いかもしれない。

そして社会派小説でもある。

この日本社会で子供を育てていく中で、おそらく多くの人が直面するあらゆる問題を盛り込んでいる。

少子高齢化社会、貧困、格差社会、マウンティング、同調圧力、介護問題、年金問題、理解のできない旦那、姑問題、ワンオペ育児等々、今後さらに問題になっていくであろう様々な事象をうまいこと物語に盛り込んでいる。

育児をしているパパやママなら、「あるあるネタ」が満載。

そして、同じような問題に直面したときにどうやって課題を乗り越えていくか、どういう考えを持っていくべきか、というヒントが示唆されている。

さらに、おそらく育児をしていて自分の子供に手を焼いた経験がある親なら、確実に泣く場面がある。

少なくとも3回は泣ける。

私は4回泣いた。

印象に残ったお気に入りの場面

あまりネタバレにならないように書くと、私が泣いた場面というのは、私の子供達が産まれて新生児だった頃のことを思い出させるシーンだったからである。

産まれたばかりの赤ちゃんを抱きかかえて無償の愛を注いでいたあの頃。

今はわがまま盛りでイヤイヤ期で手を焼くこともある息子に対して怒ったり叱ったりし、時には子供達の将来を勝ち組にしたいという欲まで生じてくる昨今であるが、純粋無垢にあの頃抱いたの無償の愛情は忘れたくない。

あと、正確には忘れたが、未来はどうせ予測できないし悩んでも仕方ないので、この先どんなことが起きても動じる事はない、というような記述も良かった。

重要なことは今日の夕食に何を食べるかである、みたいなシーン。

人生はまさにこれに尽きると思う。あれこれ先のことを考えても疲れるばかりで何も良いことはないので、毎日を淡々と大切に過ごすことが健康的に人生を楽しむ最善の策だと私も思う。

黒澤いづみさんの経歴

ところでメフィスト賞は覆面作家というか、プロフィールが謎な人が多いのだが、この人も経歴がほとんど不明。

多分子供を持つ母親であって、恐らくは人生の数年以上は専業主婦をしたことのある人でしか書けないような描写が多いので、そういう経歴があるのだろうけれども、それにしてもとにかく新人とは思えないほどの筆力である。

私の見立てでは、これデビュー後2、3年程度経ったプロ作家とかが文芸誌に出して単行本化された本だったならば確実に直木賞取っていたであろう。

直木賞の場合には新人ではなく多少のベテランが獲るので、いきなりの新人に与えるのは難しいとは思うが、とにかくレベル的にはかなりのもの。

まあ本屋大賞とかなんらかの賞は取れる水準にあるだろうし、そのうちベストセラー作家になるんじゃないかなとは思う。

なぜメフィスト賞に送ったのか

後、率直に、なんでメフィスト賞に応募したのだろうとは思った。

老舗の文芸誌の新人賞に送った方が受賞できたような感じの内容だし、ミステリ要素は薄いとは思う。それをあえてメフィスト賞に応募したあたりが興味深い。

そんな感じ。

それにしてもこれは子育て経験がない人でも泣けるのだろうか。まあ育児したことある人なら、あの瞬間とあの瞬間はもう感動してウルっとくること間違いなし。

値段は1500円。ハードカバー。安い。安くはないか。でも読むべき。面白いし役に立つ。

特に子育て世帯におすすめ。

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